「新幹線で転院したい」と言われたら? 新幹線搬送は「乗るまでの準備」が9割

もし受け持ち患者様から「新幹線で遠方の病院へ転院したい」と相談されたら、あなたはすぐに具体的なイメージが湧きますか? 車両での長時間移動に比べ、患者様の身体的負担を抑えられる新幹線ですが、その裏には一般の乗車とは全く異なる緻密な事前調整が存在します。今回は、新幹線搬送のリアルな実務と、安全な移動を支える民間救急の役割を解説します。
執筆:藤 健二郎(とう けんじろう)![]() 社会人経験を経て看護師となり、済生会福岡総合病院の救命救急センターで勤務。重症患者の看護に従事した後、大学院で看護師のストレスに関する研究を行い、急性・重症患者看護専門看護師を取得。現在は東京女子医科大学病院CCUでの臨床と並行し、ケアプロ株式会社 交通医療事業部長として、重症患者搬送や外出支援など「医療×移動」の分野で事業を展開している。 ■ケアプロ株式会社「ドコケア」:https://dococare.com/transport 民間救急とは? 緊急性の低い患者の搬送を行う民間サービスのこと。多くは、消防庁の認可を受けて「患者等搬送事業(一般乗用旅客自動車運送業)」を行っている。 |
長距離搬送では、新幹線という選択肢がある
前回までは、民間救急の役割や、重症患者様の搬送事例について紹介してきました。今回は、長距離搬送の中でも、”新幹線”を利用した搬送についてお伝えします。
遠方の病院や施設へ移動する場合、車両だけで長時間移動する方法もありますが、患者様の状態によっては、新幹線を利用した方が身体への負担を抑えられることがあります。
一方で、新幹線搬送は、通常の乗車とは大きく異なります。
寝たきりの患者様や、人工呼吸器、吸引器、酸素などの医療機器を使用している患者様の場合、ただ切符を取ればよいわけではありません。
多目的室の確保、車椅子スペースの予約、車椅子やストレッチャーのサイズ確認、駅構内の動線確認など、事前に確認すべきことが数多くあります。 また、新幹線チケットは電話だけで完結しづらく、乗降場所の管轄駅との調整も必要であり、実務上は直接駅へ行く方が早いケースが多いです。
新幹線搬送は、チケット手配から動線確認まで調整が続く
新幹線搬送でまず重要になるのが、座席やスペースの確保です。
車椅子の方であれば車椅子スペース、横になった状態での移動が必要な方であれば多目的室の利用を検討します。
ただし、多目的室は誰でも自由に使える場所ではなく、利用には事前の相談や調整が必要です。
また、車椅子で乗車する場合も、車椅子の幅や奥行き、リクライニングの有無によって、乗車可能かどうかや必要なスペースが変わります。
そのため、患者様の状態だけでなく、使用する車椅子やストレッチャー、医療機器のサイズまで確認しておく必要があります。
さらに、乗車駅と降車駅の選定も重要です。新幹線の停車時間は限られています。
特に寝たきりの方や人工呼吸器を使用している方では、途中駅から乗車したり、途中駅で降車したりすることが難しい場合があります。 東京駅などの始発駅から乗車し、目的地側でもできるだけ終点や主要駅を選ぶことで、乗降に必要な時間を確保しやすくなります。

「移動できる状態」をつくることが、民間救急の役割
新幹線搬送では、病院から駅まで、駅構内、新幹線車内、到着駅から搬送先まで、いくつもの場面をつなぐ必要があります。
出発病院での準備、駅までの介護タクシー、駅構内の移動、新幹線への乗車、車内での観察、到着後の介護タクシー、受け入れ先への引き継ぎ。
そのどこか一つでも調整が不十分だと、安全な搬送は成立しません。
また、長距離移動では、患者様の状態変化にも備える必要があります。
基礎疾患、ADL、嚥下、排泄、認知機能、夜間の状態、せん妄歴などを事前に把握し、緊急時の連絡先や受診先、診療情報提供書の準備を確認することが重要です。
新幹線搬送は、単に新幹線に乗る搬送ではありません。
患者様の状態、医療機器、駅の構造、車両設備、乗降時間、到着後の移動手段までを一つひとつ確認し、「安全に移動できる状態」をつくる仕事です。 私たちはこれからも、患者様とご家族の希望を大切にしながら、医療と移動をつなぐ長距離搬送を丁寧に支えていきます。
